ドラマの悪女役が全部相武紗季さんなら良いのに


日本人は内容をだらだらと述べるくせに結論になかなか辿り着かない傾向にある、というのは良く耳にする話だ。実際私もそれを聞いた時身が引き締まる思いがしたのをはっきりと覚えている。だが今は、今だけは違う。典型的な日本人の枠を超えて、しかも開口一番結論を述べざるを得なかった。それくらい私が心の底から尊敬してやまない相武紗季さんの悪女役について書いてみたいと思う。悪女といっても程度は様々なのだがとりあえずそう呼ばせていただく。


⒈ 第一印象は「最悪」

    オチが予想出来る雑誌のインタビューにありがちな小見出しで申し訳ない。忘れもしない2014年3月、当時再放送されていた「リッチマン プアウーマン」というドラマのせいで相武紗季さんのことが相当嫌いだった。無性に現実逃避したくなる試験期間に見事にハマったドラマだったので、登場人物を役者の名前でしか覚えていなかったことが原因の一つだと思う。私はわりと思考が単純なほうで、ラブ要素に関して応援するのは大抵制作サイドがくっつけようとしている男女2人だ。そしてそれを阻むのがまさに相武紗季さんだった。もうすぐくっつきそうという所で毎話奴が登場する。ある日奴が男(小栗旬)にキスしてそこをたまたま女(石原さとみ)が見てしまった時は私も彼女と一緒に心で泣いたし、毎話ごとに生じる怒りを翌日友達に伝えるのがお決まりだった。とにかく「相武紗季邪魔すぎる」「相武紗季ほんと無理」と言い続けた。最初のうちは役と役者は違うというのにとんでもなく失礼な言い方をしてしまって申し訳ないと思っていた。しかし、役名を覚えていないにしても相武紗季さんのことがあまりに嫌いになりすぎていた。それに追い討ちをかけるように待てよという思いがよぎる。

えーっと「リッチマン プアウーマン」でしょ、ブザー・ビートそれと…家政婦のミタ‼︎‼︎‼︎‼︎

私は衝撃の事実に気づいてしまったのだ。そう、彼女はウザ役に恵まれすぎていた。ざっと思い返すだけで3本も。上出来である。こうして役と役者は違わない素でいける役ならオファーがたくさん来るんだというある意味合っててある意味間違った固定観念がしばらく続くことになってしまった。



⒉「ブザー・ビート」という悪女代表作

    彼氏や彼氏の友達の前ではにこにこ笑顔で愛想を振りまき、消えたと思った瞬間たばこをふかし悪態をつく。舌打ちがクセ。彼氏と会う数分前まで浮気。彼氏に浮気がばれ別れる。そのくせ「◯◯が好き」「いかないで」と今更言う。元彼といい感じになってる女の子に近づき友達のフリしといてわざと誤解させるメールをおくる。元彼にバレなそうな時間を見計らいその子を責めたてる。

そんな邦ドラ史上最悪の女といっても良いくらいの曲者を演じたのも相武紗季さんだった。ご本人も「何であんなに意地悪をするんだろう」と後のインタビューで語られているくらい嫌な女なのだ。

情け無いことにこちらも試験期間にハマったドラマなので悪女っぷり以外とくに覚えていない。ただ、相武紗季さんの悪役はここから始まったというのだから非常に重要な作品である。



⒊「マッサン」

    「花子とアン」で朝ドラの面白さに目覚め、そのまま新しく始まった朝ドラ「マッサン」も見ることになった。前情報はほとんど入れずに何となく見ていて、最初はぶっちゃけつまらなかった(朝ドラには多少の辛抱が必要ということが分かってきたのは最近)。だからしびれを切らしてもう見るの止めようと思い始めた頃だった。悪女役三昧の彼女がゆうこさんとして出てきたのだ。主人公のまさはるが妻のエリーを職場に連れて行くシーンでの、私にとっては少々驚きの登場だった。「わしの妻です」と勢い良く紹介したあとのこれ。

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一体何があったんよ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎こんなところで終わられたらたまったもんじゃないわと翌日急いでテレビをつける。すると衝撃の事実。どうやらまさはるスコットランドに行く前やんわりと婚約していたようなのだ。ただ当の彼が周囲のそういった雰囲気に気づいていなかった。つまりゆうこさんはとんだ勘違い野郎だったわけだ。そしてやはりのウザ役。本当に素でいく人なんねと思いながら見進める。

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実に面白い。こちら回想シーンだがまさはる鈍感すぎる。ゆうこさんは恋していたというよりかは周囲の人の期待に応えるかつ彼ならアリだわという感じに思え、そうだからかまさはるが2年間スコットランドに行っている間良妻賢母を目指し並ならぬ努力をしていた。そしてあとは肝心の旦那を待つのみという時にこんな災難に見舞われてしまったという、いささか不憫な話である。

だがしかし

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さらに

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上は醤油intoエリーの味噌汁
下は塩intoエリーの手料理

どちらもゆうこさんの仕業である。

めっっっっっっっっっっっっっっっちゃ意地悪。
くっっっっっっっっっっっっっっっそ意地悪。

だというのにエリーは黙って堪える強い女性だというのだから余計応援したくなる。ゆうこなんかに負けるな‼︎と。おかげで私は学校から帰って来てすぐに「マッサン」を見るのが日課になってしまった。

ゆうこさんは次第にエリーの優しさによって心を開いていくようになる。そういった過程であれと気づかされた点がいくつもあった。本当に親孝行者なのである。先ほども書いたが、半ば親に決められたまさはるとの結婚のために2年間も努力し続けていた。それに英文タイピストの夢を諦めていたという。挙句、破断になったということで新たな見合い相手をまたしても親に決められてしまった。見ているうちにだんだんと可哀想になってきた。親を1番大切にしなければならないという子の気持ちも分かるし、反して自分のやりたいことをやりたいという気持ちも痛いほど分かった。主人公であるエリーと今まで悪役であったゆうこさんが仲良くなることで、彼女を単に意地悪と決めつけていた過去の自分を反省し、エリーサイドから見ると見えなかったゆうこさんのやり切れない気持ちというのが分かるようになった。

結局、彼女はお見合いをしてその人と結婚することになるのだが、結婚式当日に白塗りで家を出ていく彼女はとても美しかった。

その後も「マッサン」は非常に丹精込められた作りで6カ月の間夢中でお世話になった。あの時ゆうこさんが出てこなかったらと思うととても恐ろしい。



⒋ 「医師たちの恋愛事情」

    というタイトル、相武紗季さんのお名前。これだけでもう決めた。ドロドロの予感しかしない。超楽しい予感しかしない。そう意気込んで放送1週間前になるとすぐに録画して準備万端だった。ただ、お色気シーンがありそうという私の予感が見事的中してしまったことで予定は狂ってしまった。…親と見れない。割切って第1話を消すことにした。もうこのドラマを見ることはないだろうと思っていた矢先、テレビをつけてみると今からでも間に合う「医師たちの恋愛事情」という1〜3話の総集編がやっているではないか。運が良すぎるというか、運命というか、憎い話だというか。飛びつくように見始めたらもう止められなかった。医療を描きたいのか恋愛を描きたいのかよくわからないが、私の期待通り進んでくれるうえに絶妙なもどかしさも味わえるところが素晴らしい。肝心の相武紗季さんはシングルマザー麻酔科医役なのだが平山浩行さん演じる医局長に思いを寄せているような節がいくつかあった。これまた少女マンガのようにまっすぐに思い続ければ良いものを、院内で会うたび嫌味を言ってちょっかいを出す。やはりさすがに医局長も気付き始めたのか総集編の最後にこんなシーンがぶっこまれた。
医局長「奈々ちゃん(相武紗季)ってさおれのこと好きなの?」
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奈々「やっと気付いた?」
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医局長「…」
奈々「そんなわけないじゃない。」
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可愛すぎた。「やっと気付いた?」でえっと持ってかれてからの「そんなわけないじゃない」。医局長とは反対のほうへ去るあまりにも儚すぎる表情。素直になろうよと思わず言いたくなってしまった。お色気シーンなんてどうでもいい、これから必死に親の目を忍んで見ようと再び心に誓った。

それから4話、5話と見続けかなりハマっていて今週ももちろん6話を見る予定である。



驚いたことに私はいつの間にか相武紗季さんの悪女役虜になってしまっていた。相武紗季さん悪そうだから見る!今日も相武紗季さんは良い具合に悪かった!と。一度ブザー・ビートで悪女役が話題になったためオファーが止まらないという記事をどこかで拝見したが、全くその通りだと思う。思い返せばあの作品だって少なくとも私には相武紗季さんのおかげで面白くなったように思っている。さらに思い返せば主人公サイドから視点を逆に変えてみるとやはり悪女にもそれなりの理由があったりする。

悪女役期が続いていることは当然どうしても役=相武紗季に見えてしまう視聴者の増加につながる。そこで気になるのはご本人のお気持ちだが少し知るのが怖かった。本当の私は違うのに‼︎という気持ちが芽生えてたって仕方ない。仕方ない、のだが私は彼女の悪女役がどうしようもなく好きだ。心の準備ができぬままググり始めた。


まずは
悪女役を演じ始めた頃(2010年)の記事 *1
「きっと、嫌味な役はその度合いが強いほど、客観的な立場からはおもしろいと思うんです。“パンチあるな~”って(笑)。だから、私も演じるならとことん“いやぁ~な女”に仕上げたいです。女優として楽しみだし、振り切っていきたい」とキッパリ。 
いえええええええい



続いて
悪女役について最新のコメント(2014年)*2

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…………ちょっと本当に中の人まで魅力的すぎるんだが…



心配する必要なんて一切なかった。そりゃここまで悪女役をやり続けたにも関わらず飽きられも呆れられもしなかった彼女のことだけある。自らのイメージを犠牲にしてまで守り抜いた作品のクオリティ。まさに作品至上主義。私たちを楽しませるため作品ごとに違った角度から演じ続けてきた。悪女と1綴りするのは申し訳なすぎるくらいである。今、1番視聴者に近い女優という紹介で彼女の情熱大陸 をいつかやってほしい。



さらにこんなリアルな話まで

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にも関わらず、ロスに留学された時向こうで言われてショックだったことは?と聞かれて「意地悪」と言われたエピソードも惜しみなく披露されている。テレビでの発言がギャップを見せて好感度上げる作戦だとはおよそ思えない。彼女こそプライベートと役とでは違うことを強調すべき人だと言うのに、本気で反省していて驚くほかなかった。*3


あんなに嫌いだったのに、今や少しでも視聴者を増やせたらというか視聴者増えろぐらいの勢いで「医師たちの恋愛事情」最終回までに書き終えようとしている自分がいる。恐ろしいほど感情を弄ばれていて悔しすぎるので、相武紗季さんウザ役作品全部見ると決めた。


彼女を超える悪女役はいないだろうし、いてほしくない。悪女役界を切り開くのは、永遠にこのひとであってほしい。だから、彼女にはこれからもずっと悪女役をやり続けて欲しい。